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<呼吸器外科診療の概要>



◇はじめに

 金沢大学付属病院呼吸器外科では「Think globally. Act locally.」すなわち「世界的視野にたった最高水準で最先端の医療を追求し,それを地域の患者さんの診断から治療に活かしていく」ことを実践するために24時間体制で医療を行っています.また,Evidence-based medicine(EBM:最新の医学的,科学的な証拠に基づいて最良の医療・治療を選択し実践するための方法論)に基づいた医療を行いながらも,「気診心診」,「病気ではなく病人をみよ」の心構えを持ち,患者さんひとりひとりの病態に即した診療を心がけています.外科手術においては「痛くない」すなわち「創のない」手術という「夢」の実現にむけて,患者さんに優しい低侵襲手術に取り組んでいます.

 呼吸器外科では肺癌(原発性,転移性)を中心に,呼吸器外科疾患全般(気胸,縦隔腫瘍,手掌多汗症,漏斗胸手術など)を対象に診断から治療まで行っています.とくに肺癌に関しては臨床および研究の両面から診断と治療に力をいれており,年間160例以上の原発性および転移性肺癌の手術を行っています.全身麻酔手術件数は,院内で年間260件以上,院外でも90件以上と,金沢大学呼吸器外科チームとして計350件以上の手術の執刀,指導を行っています.各領域の手術で胸腔鏡を用いた体に優しい低侵襲手術を積極的に取り入れるとともに,呼吸器(腫瘍)内科,放射線科,病理部,理学療法部など他の優れた部門と連携して患者さんにとって最高の医療を実践できるように心がけています.このために毎週1回,放射線科,病理部および呼吸器内科の医師との4科合同カンファレンスを行い,患者さんひとりひとりの治療計画を綿密にたてています.悪性疾患で集学的治療が必要な疾患に対しては呼吸器内科および放射線科と連携をとりながら,化学療法や放射線療法を含めた複合的な治療を行い,疾患に合わせた最高水準の適切な治療を提供しています.

 また近年では,中心型早期肺癌に対して,手術治療の他に,内視鏡的レーザー治療,気管支腔内照射,光線力学療法(PDT)による治療も行っています.さらに,気道狭窄に対しては症例に応じて内視鏡的レーザー治療,ステント治療を行っています.


<患者さんに優しい低侵襲手術>

 肺切除術などでは,従来,大きな術野で直視下に手術を行うために,大きな皮膚切開と肋骨の切断を必要としていました.当科では早い時期から胸腔鏡手術を取り入れ,「病気がきちんと治り,手術が安全に行われること」を前提に「できるだけ小さい創で,できるだけ痛くない手術」を行っています. このような低侵襲手術を行うために様々な手術器具の開発や手術手技の工夫を行っています.

1)手術創の大きさ
手術創の大きさは,疾患に応じて12cm開胸手術(open thoracotomy),胸腔鏡補助下手術(MATS, Minimal access thoracic surgery), 完全胸腔鏡下手術(VATS, Videoscopic thoracic surgery)の3段階にわけています.




2)肺癌手術における積極的縮小手術と選択的リンパ節郭清
原発性肺癌の標準手術は「葉切除と系統的リンパ節郭清」ですが,小さい肺癌では正常な肺を取り過ぎることになります.また,最近多発肺癌が発見されることが多くなり,複数回手術を行うためには,できるだけ正常肺を温存する必要があります.当科では,腫瘍径が2cm以下の原発性肺癌に対しては症例に応じて積極的に区域切除術を行い,できるだけ正常な肺を温存しています.また,過去40年の手術データの蓄積から肺癌の存在する部位からリンパ節転移の可能性のある範囲を予測し,選択的リンパ節郭清を行い,不要なリンパ節郭清に伴う神経・血管の損傷を防いでいます.

3)肺癌に対する完全胸鏡下手術(VATS)
 肺癌では,おもにI期症例に対し,完全胸腔鏡下に肺葉切除または区域切除を行っています.基本的に3cmの小切開と2-3個所の小穴で手術を行います.




4)3D-CTアンギオグラフィによる肺血管の術前把握
胸腔鏡手術では限られた視野のなかで,かつ2次元のモニター画像を見ながらの手術となります.肺葉切除または区域切除では肺静脈,肺動脈といった太い血管の処理を必要としますが,症例によって変異や分岐異常が多く,その処理には時として困難を伴うことがあります.当科では放射線科の協力のもとに,造影CT画像を3D画像に再構築し,これら血管の分岐,走行を術前に把握した上で手術に臨むことで,安全で確実な手術を速やかに遂行するよう努めています.




5)INTACT (Interlobar fissure non-sparing access technique)法
不全分葉症例や肺気腫症例ではわずかな肺の損傷でも損傷部位からの空気漏れが遷延し,思わぬ合併症を引き起こすことがあります.当科では,不全分葉症例や肺気腫症例を中心に,葉間からの処理を最初に行わず血管・気管支処理を先行する肺葉切除法(INTACT法)を積極的に取り入れています.本法では肺の損傷を防ぐことにより,術後の肺からの空気漏れを最小限にすることができ,ドレーン留置期間や入院期間を短縮することが可能となります.

6)柔らかい細径胸腔ドレーンの採用
肺切除後には胸腔内からの排液や空気を排出するために胸腔ドレーンを挿入する必要があります.一般にはソラッシクドレーン(24-36Fr)が用いられますが,太くて硬いドレーンは患者さんに強い疼痛を引き起こします.理想的な胸腔ドレーンは素材が柔らかく細径であり,また内腔が確保され十分な排液・排気効果があるものです.当科では,より細径で,柔らかく,内腔を十分確保したシリコンドレーン(19Fr,6.3mmの太さ)やポリウレタン胸腔ドレーン(15Fr,5?の太さ)を用いています.これにより,管を抜いた後に皮膚を糸で縫合することもなく,皮膚切開部位も通常は皮膚の下での縫合であることから,術後の抜糸は不要となっています.




<肺癌治療>

1)当科では原発性肺癌に対して積極的に低侵襲手術を導入してきました.既に述べたように,現在ではおもにI期原発性肺癌に対し,3cmの小切開と2-3個所の小穴から完全胸腔鏡下に肺葉切除または区域切除を行っており,90%以上の患者さんで術後1週間以内での退院が可能となっております.近年では中心型早期肺癌に対しては手術治療の他に,内視鏡的レーザー治療,気管支腔内照射,光線力学療法(PDT)による治療も行っています.

2)手術だけで治る肺癌患者さんは手術症例の50-60%です.進行した肺癌患者さんには化学療法,放射線療法を組み合わせて治療を行い,さらに術後補助療法,再発肺癌の癌化学療法にも取り組み,最先端の治療を行っています.これらの診断-治療には当科の呼吸器外科専門医,臨床腫瘍学会暫定指導医等の資格を持った医師があたるとともに,呼吸器(腫瘍)内科,放射線科などと協力して行っています.




3)最近の画像診断の進歩により小型の胸部の異常陰影が検診などでよく見つかるようになっています.これらの中には“すりガラス”状の淡い陰影が肺癌ないしその前駆病態としてみつかる場合があります.このような陰影に対して,大きさと性状から経過観察される場合があります.当科ではこれまでの切除例における病理所見の詳細な検討結果を踏まえて,経過をみることの許される陰影とそうでない陰影とを厳密に区別し,悪性の可能性が否定できないものに対しては積極的に胸腔鏡下での肺生検を行っています.安易な経過観察が許されない陰影が少なからず存在することを認識する必要があります.




<他疾患の治療>

 自然気胸に対しては,初回発症例も含めて,保存的治療(経過観察,胸腔ドレナージ術)と胸腔鏡手術とを患者さんに応じて選択しています.手術適応は再発例,両側気胸例,血気胸例,初回発症で肺嚢胞の存在の明らかな症例などです.初回手術例に対しては胸腔鏡手術を原則として施行しております.血液製剤であるフィブリン糊はできる限り用いません.
 縦隔腫瘍に対しては,良性疾患や被包化され限局した胸腺腫に対しては低侵襲な胸腔鏡手術を積極的に導入しています.
 バージャー病などに対する胸腔鏡下胸部交感神経切除術では2mmの小孔からの手術を実施し,術後手術瘢痕はほとんど残りません.


<気管支鏡検査,治療>

当科では年間250例を超える気管支鏡検査を行っており,気管支鏡下治療も積極的に施行しています.気管支鏡検査時には,患者さんに対して,鎮静剤の静脈内投与による苦痛のない麻酔方法を本邦の他施設に先駆けて行ってまいりました.検査では,電子内視鏡のほか,蛍光内視鏡(AFI system),細径気管支鏡を使用し診断を行っています.気管支鏡治療として,レーザー治療,気管支腔内照射,光線力学療法(PDT),ステント治療等を施行しています.


<次世代の呼吸器外科医育成>

当科では次世代の呼吸器外科医育成のために,ドライラボや,動物を使ったウェットラボを利用した,胸腔鏡手術のトレーニングを行っています.また, ロボット操作の実習にも参加しています.


<クリニカルパス>

ほぼすべての疾患にクリニカルパスを使用し,不必要な術前・術後検査は行わず,すべての患者さんに均一な最高水準の治療を行っています.手術の翌日から歩行,食事を開始し,点滴を終了します.これまで,90%以上の患者さんで術後1週間以内での退院が可能となっています.


<医療設備>

CT,MRI,DSA,アイソトープ,放射線治療(リニアック,密封小線源装置,ガンマナイフ),各種内視鏡(蛍光内視鏡AFI system,細径気管支鏡を含む),YAGレーザー,半導体レーザー,光線力学療法(PDT)装置,胸腔鏡,ビデオ縦隔


<現在行っている臨床試験>

1・非小細胞肺癌治癒切除例に対するUFT vs GEM/CBDCA併用療法による術後補助化学療法の無作為第II相比較試験 (北陸Adjuvant研究会)
2・病理病期I期 (T1>2cm)非小細胞肺癌完全切除例に対する術後化学療法の臨床第III相試験 (JCOG0707)
3・非小細胞肺癌術後アジュバント治療におけるTS-1 vs. CDDP/TS-1の無作為第II相比較試験;化学療法効果予測因子の探索研究 (Translational Research 1) (WJOG4107)
4・胸腺内に限局する胸腺腫に対する胸腺腫切除術:多施設共同研究 PhaseII study of thymomectomy for thymoma localized in the thymus (JART02)
5・肺切除後細径ポリウレタン胸腔ドレーンの安全性評価の検討


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